IFRSのための会計英語|在庫に関する会計用語を押さえておきましょう

海外の工場などに勤務すると、急に製造管理を任せられたりします。工場の製造管理で重要なのが、人員の管理、経費の管理、それから棚卸資産の管理です。

現地の職員と議論したり、現地の従業員を指導したりするのに、在庫、すなわち棚卸資産に関する会計知識や英語表現は不可欠です。

この辺りの会計知識がないと製造工程の管理なんかできるわけがないので、最悪のケースでは管理職失格の烙印を押されかねません。

海外勤務からステップアップするために、在庫管理に関する会計用語の英語知識だけは押さえておきましょう。

また、海外の支店や営業所に勤務する場合には、単に販売実績だけでなく、仕入れた商品の保有状況にも目を配る必要が出てきます。

日本のように大所帯の組織でないのが普通ですし、管理サイドに回れば、滞留在庫の有無や在庫の回転期間などにも目を配らなければなりません。販売サイドの視点からも、在庫管理の英語知識はやっぱり必要なんですね。

ということで、とりあえず、在庫に関する会計用語やビジネス用語をしっかりと押さえておきましょう。

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製造業の在庫に関する会計英語

製造業における在庫表現は、製造工程が進むににつれて変化していきます。といっても、簡単です。

まずは、「原材料」を仕入れて、それを加工していくと「仕掛品」になって、完成すれば「製品」というように変化していきます。

まずは、この基本的な製造工程の流れに沿った英語表現を覚えておきましょう。

例によって結構いろいろな言い回しがあるので、自分で使いそうな英語を1つ覚えて、残りは英語を見たり聞いたときに意味が分かるようにしておくといいと思います。

日本語 英 語
原材料 Raw Materials
仕掛品 Work-in-progress, Goods-in-progress, Work-in-process, WIP
製品 Manufactured Products, Finished Products, Finished Goods

個人的には、Raw Materials、WIP(ウィップ)、Finished Goods、を使っています。あとは覚えなくても、英語から意味を類推できるのではないでしょうか。

製造業の原価への配分方法

棚卸資産の原価への配分方法は、在庫をどのように使ったかを仮定して行います。

✅ 日本の基準で認められている方法

日本の会計基準では、①個別法、②先入先出し法、③平均原価法、④売価還元原価法が認められています。それぞれの方法の説明は以下の通りです。

① 個別法(specific identification method)

取得原価の異なる棚卸資産を区別して記録し、その個々の実際原価によって期末棚
卸資産の価額を算定する方法。個別法は、個別性が強い棚卸資産の評価に適した方法である。

② 先入先出法(first-in, first-out method ; FIFO)

最も古く取得されたものから順次払出しが行われ、期末棚卸資産は最も新しく取得
されたものからなるとみなして期末棚卸資産の価額を算定する方法

③ 平均原価法(average method ; AM)

取得した棚卸資産の平均原価を算出し、この平均原価によって期末棚卸資産の価額
を算定する方法。なお、平均原価は、総平均法(gross average method)又は移動平均法(moving average method)によって算出する。

④ 売価還元法(retail method ; gross profit method ; gross margin method)

値入率等の類似性に基づく棚卸資産のグループごとの期末の売価合計額に、原価率を乗じて求めた金額を期末棚卸資産の価額とする方法。売価還元法は、取扱品種の極めて多い小売業等の業種における棚卸資産の評価に適用される。

✅ IFRSで認められている方法

① 個別法(specific identification method)

② 先入先出法(first-in, first-out method ; FIFO)

③ 加重平均法(weighted average method)

根拠はこちら。IAS2号Inventries(棚卸資産)の23項と25項。

23.The cost of inventories of items that are not ordinarily interchangeable and goods or services produced and segregated for specific projects shall be assigned by using specific identification of their individual costs.

代替性がなく、特定のプロジェクトのために区分して使用されている財やサービスである項目の在庫原価は、個々の原価を個別に紐づけて配分しなければならない。

25.The cost of inventories, other than those dealt with in paragraph 23, shall be assigned by using the first‑in, first‑out (FIFO) or weighted average cost formula.

在庫原価は、23項の場合を除き、先入先出法または加重平均法を用いて配分されなければならない。

って感じです。IFRS の基準では、〇〇法の「法」について、Method ではなく Formula という言葉を使っています。

✅ 日本でもIFRSでも認められていない方法

どちらでも認められていないので、覚える必要ないかも、ですが…

・最終仕入原価法(Last purchase price method)

最後に買った時の単価で棚卸資産の原価を計算する方法です。ちなみに、日本では貯蔵品などの少額の棚卸資産について最終仕入原価法を採用している会社がありますが、これは、その資産が重要でないからであって、会計基準で認められているというわけではありません。

(重要性の原則 = Materiality Principle)

・後入先出法(last-in, first-out method ; LIFO)

後に買ったものから先に出荷(払い出し)したと仮定して棚卸資産の原価を計算する方法

販売事業の在庫に関する会計英語

製造業と区別するために販売事業にしましたが、要するに自社で製造するのではなく、他社から仕入れて販売するタイプの事業のことです。

仕入れた在庫のことを、会計では、製造した在庫である「製品」と区別して、「商品」といいます。「商品」は、英語で、Goods とか、Merchandise などと表現されます。

日本語 英 語
商品 Goods, Merchandise

その他の棚卸資産に関する会計英語

✅ 貯蔵品(Supplies)

切手や収入印紙、文房具などの消耗品、パンフレットやポスターなどの未使用分を貯蔵品として貸借対照表に計上する場合があります。

貯蔵品も棚卸資産を構成しますが、他の棚卸資産は製造や出荷を通じて販売されますが、貯蔵品は使用に応じて費用となる点で他の棚卸資産と異なります。

✅ 半製品(Partially Finished Products)

製造途中という意味では、仕掛品(Work-in-progress)と同じですが、途中の状態でも販売可能という点で異なります。この販売可能な製造途中品を、半製品といいます。

頻出の科目ではないので、その時々で説明のような英語表現が使われます。Half Finished Products や Semi-Finished Products など、いろいろな言い回しがありますが、どれも類推しやすい表現なのでそれほど問題ないと思います。

✅ 販売用不動産(Real estate for sale)

不動産業における販売用の不動産も棚卸資産に分類されます。

自社で利用するために保有する不動産は有形固定資産の土地(Land)や建物(Buildings)、投資目的で所有する不動産は投資不動産(Real estate for investment)になります。

実地棚卸に関する英語表現

在庫といえば、期末日に実地棚卸を行いますよね。期末日で、いくつ在庫を保有しているか、実際に数えてみるわけです。

通常は、継続記録法(perpetual inventory method)によって、棚卸資産の入庫記録や出庫記録をつけていて帳簿上はいくつ保有しているかわかっています。実地棚卸によって判明した実際の在庫数(actual inventory, physical inventory)と、帳簿上の在庫数(balance of stock, stock balance)を比較して、棚卸差異(inventory variance)を把握し、差異を原価へ振るとともに帳簿在庫を実際在庫に直すということをします。

この実地棚卸がまたいろいろな言い方をされます。

physical inventory, actual inventory, physical stock,  physical count, stock takes, stock taking…などなど。

stock taking または、physical inventory が使われることが多いですかね。

棚卸資産に関する会計・ビジネス用語一覧

いろいろな会計用語やビジネス用語が出てきたので、その他の棚卸資産関係の会計用語と合わせて、まとめておきましょう。

日本語 英 語
棚卸資産(在庫) Inventory, Stock
原材料 Raw Materials
仕掛品 Work-in-progress, Goods-in-progress, Work-in-process(WIP)
製品 Manufactured Products, Finished Products, Finished Goods
半製品 Partially Finished Products, Semi-finished goods
貯蔵品 Supplies
未着品 Goods in transit
副産物 By-products
取得原価 Acquisition cost
付随費用 Incidental cost
製造原価 product cost
個別法 Specific identification method
先入先出法 First-in First-out method(FIFO)
後入先出法 Last-in First-out method(LIFO)
総平均法 Gross average method
移動平均法 Moving average method
加重平均法 Weighted average method
最終仕入原価法 Last purchase price method
売価還元法 Retail method, Gross profit method, Gross margin method
実地棚卸 Physical inventory, Actual inventory, Physical stock,  Physical count, Stock takes, Stock taking
継続記録法 Perpetual inventory method
棚卸台帳(記録) Inventory book
実地棚卸高 Physical inventory
帳簿在庫数 Book inventory
棚卸差異調整 Book-to-physical adjustment
棚卸差異 Inventory variance
在庫予測 Stock forecast
適正在庫 Proper inventory
過剰在庫 Excess inventory
陳腐化在庫 Obsolete inventory, 
在庫年齢表 Stock aging list
滞留在庫 Dead stock 
棚卸資産評価損 Valuation loss on goods, Loss on devaluation of inventory
低価法(日本) Lower of cost or net selling value
低価法(IFRS) Lower of cost or net realizable value
正味売却価額 Net selling value
正味実現可能価額 Net realizable value(NRV)
再調達原価 Replacement cost
在庫回転率 Stock turnover rate
品切れ、欠品 stockout, Out-of-stock(OOS)

IFRSの棚卸資産に関する会計基準

最後にちょっとマニアックになりますが、最後に、IFRSの基準を見ておきましょう。

棚卸資産に関する会計基準は、IAS 2号「Inventories」に規定されています。

棚卸資産とは

IAS 2号では、棚卸資産を以下のように定義しています。

① Assets held for sale in the ordinary course of business

通常の事業の過程において販売を目的として保有されるもの。例えば、スーパーの商品とか、商社が仕入れた商品とかを指します。製造業の完成品も、このカテゴリーです。

② Assets in the process of production for such sale

その販売を目的とする生産の過程にあるもの。例えば、製造業で工場のライン上にある仕掛品とか、建設業の建設中の建物(未成工事支出金)とかですね。

③ Assets in the form of materials or supplies to be consumed in the production process or in the rendering of services

製品の製造過程や役務の提供にあたって消費される原材料または貯蔵品。例えば、工場で仕入れた原料とか材料とかです。

注意したいのは、貯蔵品といっても、製造過程や役務提供のために使用されるもの以外は、棚卸資産には含まれないということです。日本だと、切手とか印紙とか、バンフレットとか、たまに棚卸資産にしてますけど、IFRSだと棚卸資産にはなりません。

棚卸資産の評価には低価法が適用されます

棚卸資産は「原価」※と「正味実現可能価額」※とのいずれか低い金額で計上します。

IFRSの低価法は洗替法だけなので、評価した額が帳簿価額を上回った場合は戻し入れを行います。過去の評価損額が限度ですけど。

※原価

IAS 2号では、棚卸資産の減価を、

① 購入原価 

② 加工費 

③ 棚卸資産が現在の場所および状態に至るまでに発生したその他の費用

と定義しています。

The cost of inventories shall comprise all costs of purchase, costs of conversion and other costs incurred in bringing the inventories to their present location and condition.

仕損に係る材料費、労務費又はその他製造費用のうち異常な金額、製品の保管費用、販売費用などは原価に含めません。

※正味実現可能価額

IAS 2号では、正味実現可能価額を「通常の事業の過程における予想売価から、完成までに要する見積原価および販売に要する見積費用を控除した額」と定義しています。

Net realisable value is the estimated selling price in the ordinary course of business less the estimated costs of completion and the estimated costs necessary to make the sale.

企業が通常の事業過程における棚卸資産の売却により実現されることが予測される正味の金額をいいます。

棚卸資産の原価の算定方法

① 個別法 ② 先入先出法 ③ 加重平均法 が認められています。

代替性がない棚卸資産の原価および特定のプロジェクトのために製造され、かつ、他の棚卸資産から区分されている財貨または役務の原価は、個別法によって配分しなければなりません。

The cost of inventories of items that are not ordinarily interchangeable and goods or services produced and segregated for specific projects shall be assigned by using specific identification of their individual costs.(paragraph 23)

それ以外の原価は、通常先入先出法または加重平均法によって配分しなければなりません。

The cost of inventories, other than those dealt with in paragraph 23, shall be assigned by using the first‑in, first‑out (FIFO) or weighted average cost formula.

棚卸資産の原価計算の方法

IFRSでは、実際原価法が原則です。

標準原価法および売価還元法は、適用後の計算結果が実際原価と近似であることを条件に、簡便法として認められています。

Techniques for the measurement of the cost of inventories, such as the standard cost method or the retail method, may be used for convenience if the results approximate cost.

日本基準との違い

① 棚卸資産の範囲

日本基準では、「販売活動及び一般管理活動において短期間に消費されるべき財貨」が貯蔵品として棚卸資産に計上されますが、IFRSではこのような貯蔵品は棚卸資産には含まれていません。

② 棚卸資産原価の測定方法

日本基準では、標準原価法と売価還元法の採用に明文上制限はありません。

一方、IFRSではこれは、標準原価法と売価還元法はあくまで実際原価法の観便法という位置づけです。「適用結果が実際原価と近似であること」という条件を満たした場合にのみ、この方法を採ることができます。

③ 製造間接費の配賦

日本基準では、固定製造間接費の配賦率は、予定操業度に基づいて計算し、原価差異は原則として売上原価に賦課します。原価差異が多額な場合には、これを売上原価と棚卸資産に配賦します。

一方、IFRSでは、固定製造間接費の配賦率は、正常生産能力に基づいて計算します。原則として実際生産水準が変化した場合にも、配賦率は変化せず、したがって製品(原価集計単位)ごとの原価は変化しません。結果として、発生した実際原価と配賦原価との差額は、自動的に原価計算に取り込まれ期間費用として処理されることになります。

ただし、生産水準が異常に上がってしまって、原価配賦額が異常に大きくなり、棚卸資産への配賦原価が原価発生額を大きく上回るような場合には、配賦率を見直す等の調整が必要となります。

固定製造間接費の製品(原価集計単位)の負担額は一定としつつも、棚卸資産の原価負担額の合計(BS計上額)が、発生原価を上回るような事態、つまり生産水準の多寡によって利益がでてしまうようなことは許容されないというのが、その理由です。

④ 低価法の処理方法

日本基準では、洗替法と切放法の2種類が認められています。ただし、税務上は洗替法しか認められていません。

IFRSでは、洗替法のみで、切放法は認められていません。

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英語の会計用語でわからないことがあったら、こちらを覗いてみてください。

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