シンガポールと日本の時差はなぜ1時間だけなのか

みなさんは知っているでしょうか?シンガポールの時差が怪しいって。

シンガポールの日本との時差は1時間。中国やフィリピンと同じです。

日本と同じくらい離れているタイとの時差は2時間、シンガポールより近いベトナムでさえ日本との時差は2時間なのに。なぜシンガポールと日本の時差は1時間だけなのでしょうか?

地図で示した方がわかりやすいですね。明らかにシンガポール(マレーシアも)のところだけイビツです。普通に考えたらタイやベトナムと同じ時差2時間になるはずなんですが…

シンガポールに住んでいると、どうも朝晩の明るさと時間感覚が一致しません。

その理由のひとつが、シンガポールのこの標準時刻のおかしさ。日本の標準時刻は、協定世界時(UTC)+9であるのに対して、シンガポールは+8、時差が1時間しかないんです。

加えて、シンガポールは赤道近くにあるので、年間を通して日の出、日の入りの時刻に変化がありません。日の出時刻は概ね午前7時、日の入り時刻は概ね午後7時です。朝は、午前7時近くなっても日の出前なのでまだ暗く、夜は午後7時近くになっても日没前なのでまだ結構明るい、そんな感じなんです。

仮に、標準時刻がタイやベトナムと同じ協定世界時(UTC)+7(日本との時差が2時間)だとしたら、日の出・日の入りの時刻は今より1時間早くなり、それぞれ午前6時・午後6時になるんで、違和感はなくなるんですが。

シンガポールと日本の時差が1時間しかない理由

シンガポーリアンに聞くと、香港と合わせたという答えが返ってきたります。ライバル関係にある香港よりも例えば1時間遅れて市場が開いたのでは、経済活動に不利益を及ぼす、という理屈のようです。制度のすべてが自国の経済発展を意識して作られているシンガポールらしい、なかなか説得力のある答えです。

でも、調べていくとそうでもないんですね。

シンガポール(独立前はマレーシア)の標準時刻の変遷

【~1942年:イギリス植民地時代】 

標準時刻:UTC+7~7.5(日本との時差は1時間半から2時間)

【1942年~1945年:日本統治下時代】 

標準時刻:UTC+9(日本との時差はゼロ)

【1945年~:第二次大戦終了後】

標準時刻:UTC+7.5(日本との時差は1時間半)

【1965年:シンガポールがマレーシアから独立】

標準時刻:変更なし(UTC+7.5)

【1982年~:マレーシアが標準時刻をUTC+8に統一】

標準時刻:UTC+8(日本との時差は1時間) 

歴史的経緯を見る限り、現在のシンガポールの標準時刻はシンガポールが独自で設定したものではないので、自国の経済発展を意識したシンガポール政府のいつもの政策とは少し違うようですね。もしシンガポール独自の政策なら1965年にマレーシアから独立した際に標準時刻を変更しているでしょうから。

シンガポールがUTC+8(日本との時差1時間)になったのは、マレーシアが1982年に地域ごとに異なっていた標準時間をUTC+8に統一したことに追随したものなんです。

当時のシンガポールの標準時刻はUTC+7.5でしたので、マレーシアに合わせて変更しなければ、マレーシアとの間に時差が30分発生していたことになります。さすがに人々の往来が激しいマレーシアとの間で時差が30分あったらややこしいですもんね。

日本とシンガポールの時差が1時間しかないのは、実は、広大なマレーシアが標準時刻を統一したことに、シンガポールが追随したことによるんですね。

では、なぜマレーシアの標準時はUTC+8になったのでしょうか。

マレーシアは実はとても大きいです。シンガポールやマレーシアの首都クアラルンプールのあるマレー半島だけでなく、ブルネイのあるボルネオ島(カリマンタン島)までマレーシアですからね。

こんな感じで。シンガポールの上(マレー半島)だけでなく、右の方(ボルネオ島)までマレーシアです。

統一前のマレーシアの標準時刻は、マレー半島がUTC+7.5 、ボルネオ島(カリマンタン島)がUTC+8だったんです。

ボルネオ島(カリマンタン島)は、標準時刻がUTC+8のフィリピンのミンダナオ島の隣り、経度でも同じく標準時刻がUTC+8の香港と経度がほぼ同じですから、UTC+8でおかしくないんです。

とはいえ、マレーシアとしては同一国内で標準時刻が違うのはとても不便ですので、それを統一するインセンティブがもともとあって、1982年ついに標準時刻の国内統一を決定したんですね。その時に採用したのが、ボルネオ島(カリマンタン島)の標準時刻UTC+8の方だったんです。この結果、マレー半島を含むマレーシア全域がUTC+8になったんです。

で、繰り返しになりますが、それに追随して、シンガポールも標準時刻をUTC+7.5からUTC+8(日本との時差1時間)に変更した。これがシンガポールの時差が日本と1時間しかない理由です。

もちろん、マレーシアが標準時刻を統一するときに、マレー半島のUTC+7.5を採用するという選択肢もあったでしょうから、UTC+8、UTC+7.5のどちらを採用するかを決定するにあたっては、経済的優位性や中華系諸国との関係なども考慮したに違いありませんが。

なんか不思議なシンガポール。

いろいろ調べていくと、だんだんシンガポールの真の姿が見えてきます。