今回はシンガポールのビザについてご説明していきます。
まずは多くの旅行者が気になる短期滞在目的(30日以内の観光、業務目的の滞在)でのシンガポール訪問の場合から。
短期滞在の場合は原則としてビザは不要です。ただし、出国用予約済航空券、十分な滞在費、入国時に6ヶ月以上のパスポートの有効期間が残っていることが条件です。
よくある質問に入国時に6ヶ月以上のパスポートの有効期限がなくても滞在日数が数日なら入国できるかというのがあります。
残念ですが答えはNoです。たった1日の滞在でも6ヶ月以上期限が残っていないパスポート所有者は入国できません(実際は、成田のチェックイン時に飛行機への搭乗を止められるので、日本から出国させてもらえません)。
えーっ!?と思われそうですが、ベースとして思い出していただきたいのは、ビザなしで外国へ入出国できることが特別なことであるということです。本来は、どの国へ行くにしても、入国のためにビザが必要、これが原則なんですね。ただし、それでは煩雑なこともあるので、一定の条件の下では特別にビザなして入国できるようにしている、そして日本は信用があるのでその対象国が多い。これが、私たち日本人がビザなしで、例えばシンガポールに入国できるバックグラウンドです。
「一定の条件の下で特別に」なので、特別に許可するために一定の条件がどうしても求められるんですね。
これを忘れるといろいろ理不尽に感じることが出てきちゃいます。自分もそうでした。
でも例えば日本にわけわからん連中がじゃんじゃか入ってきたら治安がめちゃくちゃになって困るじゃないですか。外国人の入国って、もともと結構慎重に対応されるべきことだから、ある程度厳密に保守的にやられてもしゃあないですよね。
ということで、渡航が決まったら、パスポートの残り有効期限はしっかりとチェックしましょう。
相変わらず、前置きが長くなって申し訳ないです。ここからはビジネス的な記事になります。
シンガポール政府の外国人(企業)に対する基本的なスタンス
シンガポールの制度を考えるときには、まずは、これが重要です。
シンガポール政府は基本的に外国人(企業)はウェルカムです(でした)が、それは自国の経済発展に寄与する限り、においてです。
自国に足りないリソースを補う高い能力や資格を持った労働者はウェルカム、自国で消費し税金を納めてくれる高い給料を受け取る労働者はウェルカム、シンガポール国民を雇用し、国民に労働の機会を提供してくれる企業はウェルカム、税金を納めてくれる企業もウェルカム、というスタンスです。
どの国も考えていることは同じなので暗には示されているところがあるかもしれませんが、シンガポールの場合はこれを明確に示している、ここが他の国とは違うところです。
逆にいえば、厳しいようですが、能力の低い人、給料の低い人、シンガポール人を雇用しない企業、税金を払わない企業はウェルカムじゃないということで、ビザの取得は厳しくなります。
加えて、就労ビザの発給条件の調整によって、外国人労働者数を調整し、もって自国民の雇用環境を調整しようという、何ともシンガポールらしい考え方を持っており、こういった政策をあからさまに実行していきます。
近年外国企業優遇によりシンガポール国民の労働環境への不満がくすぶっていることや経済成長の頭打ちが見えてきたことから、シンガポール国内の外国人労働者数を減らそうという意図を明確に示しています。
要は、すべては自国の経済のため。そのためにすべてのファクターをコントロールしていく。これが良くも悪くもシンガポールなのです。
シンガポールで働くためのビザの種類
では、シンガポールで働くためのビザの種類をまとめておきましょう。
日本人がシンガポールで働くためのビザは、基本的に、通称 ①EP(イーピー)と②Sパス(エスパス)の2種類です。①EP(イーピー)は、Employment Pass(エンプロイメント パス)の略で、管理職・専門職のための就労ビザです。②Sパス(エスパス)は一般的な職業に就く予定の方のための就労ビザです。
これにEP保有者の家族に発給されるDP(ディーピー、Dependant Pass)。普通に住んでいるだけならDPを持っていれば問題なしですが、パートタイムでも働こうと思うならばLOC(letter of conesnt)が必要になります。
もう少し詳しく見て行きましょう。
① EP(Employment Pass)
管理部門や専門性が高い職業の方のための就労ビザです。通称、EP(イーピー)です。家族の帯同(家族へのDPの発給)は、EP保有者のみが許されます。
EPの取得には、一定の要件が設定されていて、その要件を満たさなければ申請できません。
1.管理職または専門性が高いポジションでの業務を行うこと
2.十分な学歴または資格
3.月給3,600シンガポールドル以上
2017年1月1日から月給条件が3,300シンガポールドルから3,600シンガポールドルに引き上げられました。
2014年の引き上げに続いて短期間で再度下限給与を引き上げたもので、シンガポール政府のEP発給を制限していくという意思をより明示的に表したものであると言われています。
詳細な内容について政府の人材開発庁(MOM)は明言せず、個別に判断する、としていますので、実際は月給が3,600以上であったとしても却下されることもよくあります。
最近は、特にEPの発給を絞るという意図がありありで、実際の条件はさらに厳しくなっていると言われています。
② S Pass
EPよりも軽い就労ビザとでも言えるでしょうか。管理職や専門家以外の職業に就く人向けの就労ビザです。
要件は、
1.大卒、短大卒、または専門学校卒業
2.月給2,200シンガポールドル以上
EPと同様に、詳細な条件は明示されていません。
Sパス保有者を雇うためには、企業は外国人雇用税を納付する必要があったり、一定数以上のシンガポール人の雇用が必要であったりと、いろいろな制約があるので大企業以外は利用しにくい制度です。
③ DP(Depentant Pass)
配偶者ビザとか家族ビザとか言われています。お察しの通り、正確には働くためのビザではありませんが。
DPの発給条件は以下の通り。
1.EPもしくはSパス保有者の妻、未婚かつ21歳以下の子ども
2.EPもしくはSパス保有者の月給が$6,000以上
3.EPもしくはSパス保有者の勤務先がスポンサーになること
です。
月給が6,000シンガポールドル以上なので、実際にはSパス保有者の家族のDP保有者というのは少ないと思われます。
この要件もまた最低条件という感じで、実際は個別判断となります。そのため、月給が最低限度額に近い場合や勤務先のシンガポール人雇用比率が小さい場合にはDPが発給されないことも間々あります。
DP保有者もLOC(労働許可書)を取得すればシンガポールで働くことができます
EP保有者の家族(DP保有者)は、LOCという労働許可書を取得すればシンガポール国内で働くことができます。LOCの取得には雇用主が申請が必要なので、働き先が決まっていない方や自営やフリーランスの方は、LOCを取得できません。
企業からすると、LOC保有者の雇用には、Sパス保有者を雇うときのような雇用税の支払いやシンガポール人の雇用人数の制約を受けないので、とても使い勝手のいい制度と考えられています。
最近は、EPやDPの締め付けが厳しくなっているのと同様に、LOCの取得にも時間がかかるようになってきています。
なお、就労とは対価を得て働くことですので、ブログやサイト運営で対価を得ている場合も含まれます。
シンガポールで働くご主人を持つ奥様方が、例えば、ブログで収益を得ている場合、自分で会社を作って運営しない限り違法就労になります。
違法就労となれば、ご主人の会社の立場も危うくなります。結構前ですが、駐在員の奥様でマリーナベイサンズの記事を一生懸命書いていた方が、違法就労であることが発覚し、強制退去になったらしいです。
違法就労だと税金も納められないでしょうから、脱税というシンガポールでは重い罪も併せて問われます。
ご存知の通り、シンガポールでは全部筒抜け。たまに駐妻のなんちゃらとかいうブログがあったりしますが、これは大変危険です。知らぬが仏かも、ですけど、見つかったら完全にアウトです。ご注意くださいね。
(ご参考)ワークパーミット
ワークパーミットは建設現場の肉体労働やメイドさん用です。雇用主は外国人雇用税を納付しなければなりません。
日本ではそこそこ有名な言葉なので、就労ビザのことをワークパミットとか言っちゃう人がいますけど、シンガポールではかなり低いレベルの就労ビザのことを指しますので、あまり使わない方がクレバーかなと思います。知ったかぶり感が出てかっこ悪いです。
✅ シンガポールビジネスに関する情報
会社設立・会社運営・会計税務から個人の就労ビザや所得税の申告まで、シンガポールでビジネスをしていく上で知っておくべき法規制の解説記事の一覧はこちら。
🔷🔷 (参考情報) シンガポール出張のホテル選びの決定版 🔷🔷
シンガポール出張の予定がある方は読んてみてください。
シンガポール出張でどんなホテルに泊まるべきか困っている方が多かったので、各方面から情報を集めてまとめてみました。この中から選んでいただければ、満足のいくホテルがきっと見つかると思います。
また、シンガポールへの出張に関して質問の多い事項(ビジネスの服装、習慣、ビザの要否、罰金、保険、持ち物など)もまとめておきましたので、あわせてご参考にしていただければと思います。