シンガポールの不動産市況が底打ったというニュースを目にするようになってきました。
2013年ごろをピークに下落傾向にあった不動産価格のインデックスが2018年初頭には底を打ち徐々に回復の兆しを見せているということです。
私たち日本人からすると、基本的には事務所や住居の賃料がまた上昇に転じることを示してるわけで、あまりいいニュースじゃないかな、というのが個人的な感想です。
不動産市況の分析は四半期ごとにシンガポール政府の都市再開発庁から発表されていますので、後ほどかいつまんで状況を見ていくことにして、まずは、シンガポールの不動産マーケットを考察するうえでのバックグラウンドをみていくことにしましょう。
不動産マーケットのバックグラウンド
シンガポールの不動産マーケットの特徴
シンガポールの経済を考えるときにはやっぱりシンガポールの政府の関与の仕方というものを視野に入れておかないといけませんよね。
ご存知のとおり、シンガポールの経済は、創始者リー・クアンユーの強いリーダーシップのもとで、海外からの企業誘致、投資確保、およびそれに伴う有能な人材の受け入れによって、急速な発展を遂げてきました。こうした経済政策が、海外からの投機マネーを呼び込んで、シンガポールの不動産価格は世界的に見ても極めて高い水準といわれるまでに上昇したんですね。
シンガポールの国土面積は、わかりやすい例えで、東京 23 区程度といわれており、不動産の供給能力は限定的なんですね。そのため、外国企業や外国人労働者が増加するして、不動産の需要が急増すると、それに見合った十分な不動産を供給ができず、需給バランスから不動産価格は上昇しやすいという基本的なバックグラウンドがあります。実はこのことは逆も然り。経済の先行きが悪くなり、外国企業や外国人労働者が減少すると、不動産は余り気味になり、今度は不動産価格が下落しやすいということにもなります。要は、規模が小さい国なので、レバレッジ(てこ)が利きやすいんですね。
近年の不動産市況
シンガポールの急速な経済発展、外資の誘致は、シンガポールの不動産価格を跳ね上げ、2008年のリーマンショック前にピークに達します。リーマンショックで一時的にスローダウンしたものの回復は早く、2014年にはリーマンショック前の水準に近づくほどに回復しました。
不動産価格の高騰は、住宅の取得価格や生活コストの上昇等という形でシンガポール国民の生活環境に影響し、シンガポール国民は次第に政府の外国人政策に対して不満を抱くようになってきました。こうした国民感情に対処するため、政府は外国人流入抑制策や外国人を狙い撃ちにした住宅投機抑制策を相次いで導入し、シンガポール国民の政府への反発をそらす政策を採り始めたのです。不動産価格の急騰がバブルと目されるようになり、ソフトランディングを試みたというのも、ひとつの理由ですけど。こうしたシンガポール政府の施策の結果、2015,6年ごろから不動産の取引価格や賃料が下落をはじめ、将来のシンガポール経済の予測や不動産供給見込みから、しばらくはこの下落傾向は継続すると考えられていました。
ところが、2017年の後半、調整局面で完成在庫が少ないなか、中国や香港のデベロッパーが強気の入札をはじめ、政府の土地売りだし落札価格が大幅な上昇を始めました。これまでは、国内の需要を外国人労働者の数で調整し、シンガポール政府は巧みに不動産価格をコントロールしてきましたが、ここへきてコントロール不能の中華資本が不動産価格のひとつのファクターとして出てきた、という感じでしょうか。
不動産市況の予測
これは以前の記事で自分が書いた内容です。
ポイントは、不動産市況(取引価格や賃料)はシンガポールへの海外企業の流入数(それに伴う労働者数)に影響を受けるという点とシンガポール政府はあらゆる経済局面においてコントロールを試みるという点。この2点が、シンガポールの不動産市況を考察するうえで不可欠な視点です。
この政府のコントロールについての個人的な印象ですが、経済の完全なコントロールはそもそも不可能であるというべきなのか、それとも他の東南アジア諸国の台頭によりシンガポール政府だけでコントロールできない要因が増えたためなのか、原因はわからないが、少なくともコントロールの有効性は弱まっているように感じます。
当時は、香港や中国のデベロッパーによるここまで強気な入札を予想していたわけでは、もちろんないのですが、やはり政府がコントロールできることに限界がきているように思います。
シンガポールの統計的データ
2018年7月に都市再開発庁から公表された2018年6月(2018年2Q)のマーケット指数レポートで興味深い指数をお示しするとこんな感じです。
住宅用不動産市況の指数
住宅用不動産価格の指数は前四半期比で3.4%増。着工が+49.7%、進行中の案件も+11.6%。住宅用不動産供給に向けた動きが活発化しているのが見て取れますね。
下のグラフを見ると、2017年の後半で底を打って、急騰しているのがよくわかります。
住宅用賃料相場の指数
賃料相場にはまだ跳ね返っていませんが、やはり2017年の後半で底を打ったかなというような動きにも見えます。
中心部のオフィス賃料の指数
明確に跳ね返って上昇に転じている、というより高騰ですね。
先にも触れましたが、もはや政府の施策だけでは、コントロールできないところまでシンガポール経済は大きくなり、グローバル化しているんですよね。ここをシンガポール政府が見誤らないようにしないと変な動きが起こるかもしれません。もしくは、政府が制御しきるか。
指数の動きは、ちょっと目が離せない興味深いものになってますね。
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